(※音声なし)将来、人が長期間宇宙に滞在する場合、その生存に不可欠な食料の生産、空気や水の浄化、物質リサイクルなどを閉鎖環境下で行なう閉鎖生態系生命維持システムが必要となる。そこでは基本的に、人間を含む動物の呼吸により排出されるC O2は植物の光合成で吸収・固定され、その時に生ずるO2が動物の呼吸に利用される。
また、動物の排泄物や植物の非可食部分は、酸化されて水とC O2およびその他の無機物に変換されるので、その酸化に必要なO2の供給および発生するC O2の吸収も植物の光合成が担える。さらに有害な微量ガスや不快臭気の吸収、除去も植物に依存できる。また飲用水には、栽培植物からの蒸散水を凝縮して用いる。さらに、強度の肉体的・精神的ストレスに曝される宇宙飛行士が、生鮮野菜を摂取し、生きた植物と接触することは、精神的ストレス緩和に有効である。したがってCELSSでは、食料生産機能に加えて、ガス処理、水処理、ストレス緩和機能などをもつ多機能植物栽培システムの構築が重要となる。
地上とは異なる環境下、限られた空間・資源・エネルギーの中で安全かつ計画的に食料を人に供給するためには、健全に成長する植物の挙動を正確に把握し、生産速度を最大にする環境制御が必要となる。その環境制御技術を確立するためには、植物のガス交換および成長に対する物理的環境要素(光強度、明暗周期、光の波長、温度、湿度、C O2濃度、気流など)の影響に加えて、微小重力や低圧環境など宇宙特有の環境の影響を把握することが重要となる。
これまで、ISSなどでの微小重力環境を利用することにより、地上では重力影響に隠されてきた種々の環境要素に対する屈性や形態形成など植物の潜在的機能に関する生理学的研究が行われ、また微小重力下でも植物は長期間生育できることが示されている。しかし宇宙農場では、食料としての植物の高速大量生産を追求しなければならない。
本研究では、環境ストレス耐性の大きいサツマイモを対象として、その栽培装置を開発中である。サツマイモは食用となる根部および茎葉部に栄養素がバランス良く含まれ、その可食部比率は95%以上である。さらにビタミンA、C およびE、食物繊維、タンパク質などが豊富であり、特に茎葉部には抗酸化物質を豊富に含む。また、種子繁殖ではなく、栄養繁殖で容易に増殖できる。空間容積、エネルギー使用量が限られる宇宙農場では、蔓性の茎葉部を収穫して葉面積密度を適正に制御し、群落としての受光効率を高め、成長速度を高めることができる。これまでの研究結果に基づく試算では、1人あたりの必要栽培面積は54m2であり、例えば3×3×3 m3の栽培空間に6段の栽培棚を設置すると、1人分の食料生産と同時に、蒸発散により1日約200Lの清浄水を回収できる。なお地上の一般農地での作物生産では、この6倍以上の耕地面積が必要である。
以上のような宇宙での植物栽培技術の開発は、地上では重力の影響で覆い隠されていた植物と環境との相互影響についての本質、例えば流体である大気と植物の相互影響や重力の潜在的な生物影響を解明することに繋がり、地上での植物生産(農業生産)において、農業物理学的側面から、ガス交換(光合成や蒸散)促進、高温障害回避、水収支改善などに結びつく新たな技術の発展に繋がることが期待できる。
また閉鎖系植物生産の応用例として、最近注目されている植物工場栽培への展開が考えられる。例えば、明期には光合成によりCO2を吸収し、O2を放出する植物と、常時O2を吸収し、CO2を放出するキノコの栽培室を連結し、両者の成長を促進することができる。またキノコ菌糸の培地に植物生産システムから排出される植物残渣を用いることも可能である。さらに植物成長計測・情報解析とフィードバック・フィードフォワード制御に基づく栽培環境制御の自動化技術は、自動化植物工場への応用が期待される。
さらに宇宙農業生態系の概念は、農業を取り入れた都市圏生態系へと展開できる。系外からの入力物質量、および太陽エネルギー以外の入力エネルギー量を最少にできれば、系外への負荷も最少となる物質循環型の社会に近づく。都市圏における人、物質、エネルギーなどの流れのビッグデータに基づいた解析などを駆使した正確な予測の下に、物理学・数理学的な思考を基礎とした農学を取り入れて、都市圏の再構築を図っていく必要がある。
2015年に国連が提唱した2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」の中で、特に水・衛生(目標6)、エネルギー(目標7)、持続可能な都市(目標11)、持続可能な生産と消費(目標12)、気候変動(目標13)、陸上資源(目標15)に関して、ゼロエミッションや循環型社会構築が重要課題となっている。農林水産業は、このような地球規模あるいは地域規模の諸問題を解決するために、食料生産(SDGs目標2)のみならず、環境保全の重要な役割を担うと考えられ、そのためには、宇宙生態系の考え方が大いに役立つと考えられる。
また、動物の排泄物や植物の非可食部分は、酸化されて水とC O2およびその他の無機物に変換されるので、その酸化に必要なO2の供給および発生するC O2の吸収も植物の光合成が担える。さらに有害な微量ガスや不快臭気の吸収、除去も植物に依存できる。また飲用水には、栽培植物からの蒸散水を凝縮して用いる。さらに、強度の肉体的・精神的ストレスに曝される宇宙飛行士が、生鮮野菜を摂取し、生きた植物と接触することは、精神的ストレス緩和に有効である。したがってCELSSでは、食料生産機能に加えて、ガス処理、水処理、ストレス緩和機能などをもつ多機能植物栽培システムの構築が重要となる。
地上とは異なる環境下、限られた空間・資源・エネルギーの中で安全かつ計画的に食料を人に供給するためには、健全に成長する植物の挙動を正確に把握し、生産速度を最大にする環境制御が必要となる。その環境制御技術を確立するためには、植物のガス交換および成長に対する物理的環境要素(光強度、明暗周期、光の波長、温度、湿度、C O2濃度、気流など)の影響に加えて、微小重力や低圧環境など宇宙特有の環境の影響を把握することが重要となる。
これまで、ISSなどでの微小重力環境を利用することにより、地上では重力影響に隠されてきた種々の環境要素に対する屈性や形態形成など植物の潜在的機能に関する生理学的研究が行われ、また微小重力下でも植物は長期間生育できることが示されている。しかし宇宙農場では、食料としての植物の高速大量生産を追求しなければならない。
本研究では、環境ストレス耐性の大きいサツマイモを対象として、その栽培装置を開発中である。サツマイモは食用となる根部および茎葉部に栄養素がバランス良く含まれ、その可食部比率は95%以上である。さらにビタミンA、C およびE、食物繊維、タンパク質などが豊富であり、特に茎葉部には抗酸化物質を豊富に含む。また、種子繁殖ではなく、栄養繁殖で容易に増殖できる。空間容積、エネルギー使用量が限られる宇宙農場では、蔓性の茎葉部を収穫して葉面積密度を適正に制御し、群落としての受光効率を高め、成長速度を高めることができる。これまでの研究結果に基づく試算では、1人あたりの必要栽培面積は54m2であり、例えば3×3×3 m3の栽培空間に6段の栽培棚を設置すると、1人分の食料生産と同時に、蒸発散により1日約200Lの清浄水を回収できる。なお地上の一般農地での作物生産では、この6倍以上の耕地面積が必要である。
以上のような宇宙での植物栽培技術の開発は、地上では重力の影響で覆い隠されていた植物と環境との相互影響についての本質、例えば流体である大気と植物の相互影響や重力の潜在的な生物影響を解明することに繋がり、地上での植物生産(農業生産)において、農業物理学的側面から、ガス交換(光合成や蒸散)促進、高温障害回避、水収支改善などに結びつく新たな技術の発展に繋がることが期待できる。
また閉鎖系植物生産の応用例として、最近注目されている植物工場栽培への展開が考えられる。例えば、明期には光合成によりCO2を吸収し、O2を放出する植物と、常時O2を吸収し、CO2を放出するキノコの栽培室を連結し、両者の成長を促進することができる。またキノコ菌糸の培地に植物生産システムから排出される植物残渣を用いることも可能である。さらに植物成長計測・情報解析とフィードバック・フィードフォワード制御に基づく栽培環境制御の自動化技術は、自動化植物工場への応用が期待される。
さらに宇宙農業生態系の概念は、農業を取り入れた都市圏生態系へと展開できる。系外からの入力物質量、および太陽エネルギー以外の入力エネルギー量を最少にできれば、系外への負荷も最少となる物質循環型の社会に近づく。都市圏における人、物質、エネルギーなどの流れのビッグデータに基づいた解析などを駆使した正確な予測の下に、物理学・数理学的な思考を基礎とした農学を取り入れて、都市圏の再構築を図っていく必要がある。
2015年に国連が提唱した2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」の中で、特に水・衛生(目標6)、エネルギー(目標7)、持続可能な都市(目標11)、持続可能な生産と消費(目標12)、気候変動(目標13)、陸上資源(目標15)に関して、ゼロエミッションや循環型社会構築が重要課題となっている。農林水産業は、このような地球規模あるいは地域規模の諸問題を解決するために、食料生産(SDGs目標2)のみならず、環境保全の重要な役割を担うと考えられ、そのためには、宇宙生態系の考え方が大いに役立つと考えられる。
- Category
- ドキュメンタリー - Documentary
- Tags
- JAXA, 有人宇宙活動, 宇宙実験
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